鍼による疼痛緩和は、古くから経験的に知られてきましたが、近年、そのメカニズムが神経科学の進歩によって徐々に解明されつつあります。いわゆる筋緊張の緩和だけではなく、神経回路や伝達物質へ影響をあたえることでさまざまな効果が出ることが研究で述べられています。

鍼刺激が引き起こす身体の変化

鍼刺激は、身体に様々な変化をもたらし、それが複合的に作用することで疼痛を緩和すると考えられています。主なメカニズムとしては、以下のものが挙げられます。

• 内因性オピオイド系の活性化: 鍼刺激によって、脳内ではモルヒネと似た作用を持つ「内因性オピオイド」という物質が分泌されます。この物質が痛みの信号伝達を阻害し、鎮痛効果をもたらします。

• 下行性疼痛抑制系の活性化: 脳から脊髄へと向かう神経回路である「下行性疼痛抑制系」が活性化されます。この神経回路は、痛みの信号を抑制する働きを持ち、鍼刺激によってその活動が促進されます。

• 末梢神経系の調節: 鍼刺激は、末梢神経の興奮性や抑制性を変化させ、痛みの信号伝達を阻害します。

• 血流改善: 鍼刺激は、局所の血流を改善し、組織の代謝を促進します。これにより、炎症物質の除去が促進され、痛みを軽減します。

• 自律神経系の調整: 鍼刺激は、交感神経と副交感神経のバランスを調整し、ストレスを軽減します。ストレスは痛みを増悪させる要因となるため、その緩和は疼痛軽減に繋がります。

ゲートコントロール説

鍼の鎮痛作用を説明する古典的な理論として、「ゲートコントロール説」があります。この説では、太い神経線維と細い神経線維が脊髄でシナプスを形成しており、太い神経線維からの刺激が細い神経線維からの痛みの信号伝達を抑制するというものです。鍼刺激は太い神経線維を刺激することで、痛みの信号が脳に伝わるのを抑制すると考えられています。

現代の研究で明らかになっていること

近年、脳イメージング技術の発展により、鍼刺激が脳の様々な部位に影響を与えることが明らかになってきました。例えば、鍼刺激によって、大脳皮質、視床、中脳水道周囲灰白質などの部位で活動が変化することが報告されています。これらの結果は、鍼の鎮痛作用が複雑な神経回路網を介して起こっていることを示唆しています。

まとめ

鍼による疼痛緩和のメカニズムは、まだ完全に解明されていませんが、内因性オピオイド系の活性化、下行性疼痛抑制系の活性化、末梢神経系の調節、血流改善、自律神経系の調整など、様々な要因が複合的に作用していると考えられています。

当院では、手足のしびれを訴える患者様がいらしています。対象部位での神経の経路に、鍼と低周波治療器を使用した施術を行い神経系の痛みへの対処を行っています。

参考：はりきゅう理論 医道の日本社